
ゲーム音楽といえば今やサウンドトラックだけでなく専門のレーベル・イベント等も存在し、根強いファンもいる1つのジャンルのして確立している。
 そんなゲーム音楽業界の中でも知らぬものはいないとも断言できる植松伸夫氏。「ファイナルファンタジー」シリーズや「半熟英雄」シリーズの音楽を手掛け、自身のバンド・EARTHBOUND PAPASも率いる多忙な植松伸夫氏と、「ソニックウィングス」シリーズの音楽制作で頭角を現し様々なアーティストとのコラボレーションでアニメ・ゲーム主題歌制作やライブ、番組パーソナリティなど幅広く活動を繰り広げる細井そうし氏の対談が都内某所・植松伸夫氏のスタジオでおこなわれた。
 その様子を全3回にわたりほぼノーカットでお届けしようと思う。
 二人の初めての出会いは実は意外な場所だった。
聞き手: 溝口太郎 / 写真: 小林伸
—お二人が出会ったのはいつ頃ですか?
- 細井そうし(以下、細井):
 - GAMADELICさんのライブの打ち合わせが初めてですかね。
 - 植松伸夫(以下、植松):
 - 去年?いつだっけ?
 - 細井:
 - ライブが去年(2017年)の4月で、その打ち合わせの後に磯丸水産行ってそこで初めましてって(笑)
 - 植松:
 - 人によっては仲良くなるのに時間かかるパターンもあったりする中で細井さんとはすぐ打ち解けましたね。すごく親しげに話しかけてくれたからね。堅苦しく話しかけられるとコッチも身構えちゃうし。
 - 細井:
 - その時は周りにも共通の知り合いがいましたから。それで話しかけやすかったってのもありますね。
 - 植松:
 - GAMADELICさんのバンドメンバーをお互い知っていたり、ウチのバンドのベース(弘田佳孝氏)と一緒にやってるみとせ(のりこ)さんを知ってたりとか、お互い共通点があったんで余計に話しやすかったのかもしれませんね。
 
—聞いたところによると、実は遥か昔にお会いしてたとか?
- 細井:
 - 20年くらい前ですけれども、前にいた会社(ビデオシステム)を辞める直前にスクウェアさん(現・スクウェア・エニックス)に面接に行きまして…。
 - 植松:
 - 俺いた?それ覚えてなかったんだよね。
 - 細井:
 - まさか植松さんが面接会場にいらっしゃるとは思わなくて、本人を目の前にしてド緊張しちゃって受け答えがしどろもどろになってしまってそりゃ面接落ちるわっていうね。
 

—スクウェアに落ちた原因は植松さん本人がいたから(笑)
- 植松:
 - (笑)任天堂受ければよかったじゃん。
 - 細井:
 - そうなんですけどね。RPG作りたいって気持ちが当時は強くて。
ずっとアーケードでアクションゲームやシューティングゲームを作り続けてきたんですけれども、僕の作る曲がどうしても叙情的なものが多くて20秒30秒でガンとインパクト与える曲よりもゆったりと聴かせる曲の方が得意で、周りの人たちもそういう評価をしてくれていたのでアーケードよりもコンシューマーの方に行きたいなと思っていたんです。
それでスクウェアさん受けたんですけどもダメでした(笑) - 植松:
 - (笑)20年前っていうと「ファイナルファンタジー」だと…VIIくらいか?
 
—そうですね。1997年だとちょうど発売された年ですね。
- 細井:
 - VIにかなりハマってこういう音楽をやりたいって気持ちが凄く強くなったんですよね。
未だにそうなんですけれども、内蔵音源が大好きなんですよ。 - 植松:
 - わかるわ、それ。
 

《限られた容量の中で各メーカーのサウンド屋さんがどんな凄いコトをしてくるのかってところが面白かった》
- 細井:
 - 内蔵音源の限られたものの中でどれだけ凄いことをやるかってところに魅力を感じるんですよね。
 - 植松:
 - 内蔵音源ってのは決められた一つのルールでもあるよね。小さい容量の中で何をやっていけるかなっていうところがあるじゃないですか。今だとストリーミングでスタジオ録音したヤツを流せたりしますけど、それはそれで全然いいんですけれども、限られた容量の中で各メーカーのサウンド屋さんがどんな凄いコトをしてくるのかってところが面白かったよね。
 - 細井:
 - 内蔵音源でシノギを削った時期つまりはスーファミの頃から、古代祐三さんとか凄い人がどんどん出てきて、その後にプレステが出てきてCD-ROMの台頭でCD-DAが一時期主流になった時期があったんですけれども、そこで僕は一時期ゲーム音楽聴くことから離れちゃったんですよね。
僕がゲーム音楽に憧れてこの業界入ったきっかけというのがインタラクティブミュージックをやりたいという点だったんです。つまりはリアルタイムでプログラムによって音楽を制御してゲームの世界観にマッチさせていくという映像音楽のあり方が他のテレビや映画にはないものだと魅力を感じていたので、(CD-DAの様に)ただ音楽を流すだけということに魅力を感じなかったんです。ゲーム音楽とゲームプレイが乖離している現象がその時期に見られて、それが嫌だったんです。
だからプレステのお仕事をいただいた時も「CD-DAと内蔵音源のどっちでやる?」って提示されて僕は迷わず内蔵音源をチョイスしましたね。 - 植松:
 - 内蔵音源だとプログラムでいろんなことが出来るんですよね。
「ファイナルファンタジー」の VIIかVIIIの時だったかな…フィールド歩いてて街に入るとフィールドの曲がフェイドアウトしつつ街の曲がフェイドインしてくる仕様にしたんですよ。誰も気づいてくれなかったんだけど(笑)それってリアルなストリーミングだと出来ないじゃないですか。内蔵音源だとそういう独自の進化の仕方がプログラマーさんや企画やさんのアイデア次第で有り得るんですよ。
それがどんどんと音質を追い求めるようになってしまって、スタジオ録音したオーケストラが流れるのが高級だと思われるようになってしまいましたね。 - 細井:
 - 音楽の質とゲーム全体の質って求められる方向性が違うと思うんですよね。
 - 植松:
 - ゲーム音楽ってのはあくまでもゲームの一部なんだから他の音楽と同じである必要はないんだよね。ゲームをやっている時に楽しませてくれればいいんですよ。ブラームスが流れる必要はないんです。
 - 細井:
 - ゲーム音楽って独自の進化を遂げていると思うので…
 - 植松:
 - でも今は意外と止まっちゃってるよね…何とかならないかな(笑)
 

- 細井:
 - (笑)ここ最近、また少しだけ進化の兆しもあるみたいですね。ストリーミングのON/OFFで楽器構成をインタラクティブに変えたりすることは出来るようになってきましたね。だからこの先、5年10年は楽しみかなって。
 - 植松:
 - 光田(康典氏)がやってるヤツとかかな…。なんか凄く大変なことやってるって風の便りで聞いて。だから俺はやるまいって。面倒くさいから(笑)
 - 細井:
 - ゲームの企画からプログラムから全部を巻き込まないといけないから大変なんですよね。
 - 植松:
 - だからソフトハウス屋さんが音楽屋さんを抱え込んでる方がやりやすいんだよ。
 - 細井:
 - そうなんですよ。僕は長いことフリーランスでやってますけど、依頼が来るときはリストで「このシーンの曲とこのシーンの曲…」って書いてあってそれを1曲いくらで作ってください、はい納品しました、で終わりになっちゃうんですよね。
本当は企画の段階で、どういう音の作り方か、どういう音の鳴らし方か、どういう制御の仕方か意見を言いたいですけれども、依頼側と相当仲良くないと難しいですよね。 - 植松:
 - ゲーム音楽は本当はそうやって作られるべきだと思うんだよ。今はゲーム上から流れてくるのは「音楽」であって「ゲーム音楽」ではないなと。
 - 細井:
 - そうですね。優れたゲーム音楽って効果音だと思うので…
 - 植松:
 - そうだね。
 

- 細井:
 - そういうのも分業化が進んでくると、効果音を作る人・ファンファーレを作る人・BGMを作る人ってどんどん分かれてしまって、そのせいでメロディ要素のある効果音を作ってもBGMとキーがぶつかってしまって気持ち悪くなったりすることが起こったりしちゃう。そういった現象をメジャーどころのゲームでも散見しますね。
 - 植松:
 - それはもう分業の弊害で、勝手に作っているものが勝手に組み合わされちゃってるから当然そうなるわけよ。
 - 細井:
 - だから一人で全部やっていた頃のゲームって効果音もBGMも全てワンセットでゲーム音楽になっていたと思うんです。
 - 植松:
 - でもそれって日本のゲーム音楽の歴史を紐解いて考えてみると、ゲーム音楽というものが優れてるものだって世の中に認知されたのはドラゴンクエストがきっかけだったじゃないですか。あれはゲーム音楽というよりも音楽が優れているわけで、そこが出発点になってしまっているから「ゲーム音楽はちゃんとした音楽でなければならない」ってみんなに刷り込みがあるんじゃないかな。だから日本よりもアメリカのゲームの方がちょっと実験的だったりするよね。
すぎやま(こういち)先生がバロックっぽい音楽でドラクエをガッチリ作ってオーケストラでコンサート開いたりしているのが土台になって積み重なっているから、意外と別の方向に行っていないというか、30年間すぎやま先生のやってこられたことを積み上げてるだけなんだよね。僕とかもそうなんだけど。だからイキのいい若い人がそろそろ出てこないかな…。 - 細井:
 - あの形が普及してしまうとすぎやま先生のイメージが出来上がってしまいますけれども、元々すぎやま先生自身がゲームがお好きな方なので、ドラクエの初期のものを分析してみると作品自体をしっかりと理解してゲーム音楽を作っていることがわかるんですよね。
例えばフィールド曲から先頭の曲に移行する時にキーを揃えていたり、竜王の城で一階降りていくごとにキーが半音ずつ下がっていったり。あれこそまさにインタラクティブミュージックですよね。
あれって音楽的素養の高い人がゲームのことを理解して作った稀有な例だと思います。 - 植松:
 - それも内蔵音源だったからできた訳でしょ。
 - 細井:
 - だからスーパーファミコンとかプレイステーションとかになって、すぎやま先生が直接関われるところが段々と少なくなっていったんでしょうね。
 - 植松:
 - 多分そうだろうね。
 

- 細井:
 - 植松さんの場合はどれくらい「ファイナルファンタジー」に関わっていたんですか?
 - 植松:
 - 僕は「ファイナルファンタジーV」の頃くらいまでは効果音も作ってたかな。直接打ち込んで作ってたのはファミコンの頃でスーパーファミコンの頃はサンプリング音源使ってたね。
 - 細井:
 - スーパーファミコンって容量の問題とかでクセありませんでした?
 - 植松:
 - いや、ファミコンの頃から考えたら万々歳だよ(笑)でもスーパーファミコンでサンプリング音使ってドカーンと爆発音を編集して作るよりも、ファミコンで音程を打ち込んで爆発音を作る方が面白いよね。
 - 細井:
 - 無限の可能性がありますよね。プレイステーションの時もまだ容量に制限があったから爆発音の場合、ドカーンって長いのをそのままサンプリングできないから短い音で作ってそれをシーケンスで組み立てて作ってましたよね。そのあたりのマニュピレートの部分は他のスタッフの方がやっていたんですか?
 - 植松:
 - そうだね…スーパーファミコンの頃は一緒にやってたね。プレイステーションの頃にはスクウェアも分業制になって効果音だけ作ってる社員とかいて、そんな人を入れてどうすんだよ!って(笑)今思えば必要なんだけど。
 - 細井:
 - 先見性があったんですね。
 - 植松:
 - そんなの誰かに作らせればいいじゃんって思ってたんだけど、その後段々とムービーとかも増えてきて5.1chサラウンドなんかになってくると、映画とかと同じようにゲームにも効果音専門の人が必要なんだな、と思うようになりました。
 - 細井:
 - 昔って効果音だけじゃなくタイトルコールとかも自分でやってましたよね。
 - 植松:
 - 「半熟英雄(はんじゅくヒーロー)」とか社員がやってたよ。
 - 細井:
 - 声優さんに声をお願いするってことがなかったですよね。
 - 植松:
 - 声優さんって30年くらい前は今のようにアイドルみたいな感じってなかったよね。最近、声優って聞いて写真とかを見てみると凄い可愛い子が出てるんだよ(笑)
 - 細井:
 - 今の声優さんも大変だと思いますけどね。声優って本来見た目は重視されないのにライブやってグラビアやって、「私何やってんだろ」って人も中にはいるかもしれませんよね。
 

植松伸夫 Nobuo Uematsu Official Website
 http://www.dogearrecords.com/
細井そうし hosplug (ホスプラグ) | ゲーム音楽・映像音楽制作
 https://www.hosplug.com/
