ゲーム音楽の大家・植松伸夫氏とファンからの根強い人気を持つ細井聡司氏の対談の第2回。
今回はお互いの出発点や音楽自体の在り方などより深いテーマへと話題が移行していった。

聞き手: 溝口太郎 / 写真: 小林伸

《一回だけ親にシンセ買ってくれって言ったことがあったな。MOOGのタンスみたいな500万くらいのヤツ(笑)》

細井:
作曲をするということも最近は一般の方にとってハードルが下がりましたよね。
植松:
GarageBand初めて触った時、気絶するかと思ったよ。ボタン一つで横揺れのノリがすぐに出来たり。俺ら打ち込みでどんだけ苦労したと思ってんだよ(笑)
細井:
作るっていうよりも組み立てるって感じですよね。ガンプラに似てるかも。昔は接着剤で貼り合わせて色塗って…って工程があったのが今や嵌め合わせるだけである程度の形になっちゃう。その分、センスが勝負の分かれ目になってくるんでしょうけど。
昔は音楽を作れる機材があるだけでも凄いって思われてましたよね。シンセも1つ40万50万しましたし。
植松:
買えなかったもんな…。ローランドとかヤマハがモノフォニックのシンセを出した頃とか楽器屋行って触ってみたんだけど何やっても音が出ないんだよね(笑)
細井:
当時はまだプリセットとか無かったから(笑)
植松:
当時、僕は中学生だったけど一回だけ親にシンセ買ってくれって言ったことがあったな。MOOGのタンスみたいな500万くらいのヤツ(笑)これ欲しいんだよねって(笑)
ELPのキース・エマーソンの後ろにMOOGが置いてあってこれ買ったら凄い人間になれるんじゃないかと思って(笑)
でもそれで実際に買って世界一になった人が冨田勲さんなんだよね。だからあの時、親が俺に買ってくれてたら…(笑)
細井:
僕の時代でいうところのシンクラヴィアとかフェアライトCMIですよね。
植松:
大学の頃に音楽を習っていた岩崎工さんとか安西史孝さんとか天野正道さんとかがチーム(TPO)を作ってて、アニメとかCMの音楽作ったりして売れっ子だったんだけど、彼らがオーストラリアのメーカーに直談判に行ってフェアライトCMIを仕入れたのが日本では第一号なんだよね。
それで岩崎さんに「植松君、フェアライト見にきなよ」って言われてスタジオ行って見たらドラムの音がフェアライトCMIから流れてて「うわ!これでドラマーが必要なくなった!」って衝撃を受けたよ。結局ドラマーは必要だったけど(笑)でも機械から生の音が出てたのは衝撃受けた。
細井:
それが今や数千円のソフトで買えますからね。でも実際に買って見たら「あ、こんなもんか」って。
植松:
だからハードウェアって大事なんだよ。(スマートフォンを指しながら)こんな小さいのから出てくるんじゃダメなんだよ。やっぱりデカいのから出てこないと。
僕、未だにソフトってダメなんだよね。(ダウンロードじゃなくて)CDとかも買うし。形がないものってどこを喜んでいいのかわからなくてさ。
僕はLP時代の人だから特に感じるのかもしれないけど、昔のアートディレクターとかジャケットを作ってた人はやり甲斐があったと思うんだよね。それが今ではジャケットすら無くなってたり。ビジュアルと音って頭の中で一致しているもののはずが、ビジュアルイメージが無いってのはどうもピンとこないんだよね。
細井:
僕も映像と音が一体化していてほしいという気持ちがあるからジャケットのイラストレーションはすごく重視しますね。中学生の頃、家でミニコンポで音楽聴く時も一緒にジャケットを楽しむってのが音楽の在り方でした。

《メディアを大切に扱うと必然的に音楽も大切に扱うようになる》

植松:
今だとジョギングしながら聴いてたりするしね。頭に入るわけないよ。音楽に失礼ですよ。カセットテープの頃とかはすぐにテープが絡まったりするから大切に扱ってたよね。レコードでも針を飛ばさないように聴いたり。
メディアを大切に扱うと必然的に音楽も大切に扱うようになるわけで、レコードに針を落としている間はジャケットとライナーノーツを眺めながら聴くっていう、ある意味儀式でしたね。
細井:
でも今またカセットテープも売れてきているみたいですね。デッキも新しいのが発売されていますし。
植松:
カセットテープの音質が好きっていう人いるよね。知り合いでもCD買ったらそれを一回カセットテープに録音して聴いてるって人がいる(笑)
細井:
WAVデータをCDに焼いて聴くのでも何故か違ったりしますよね。今の話を聞いて劣化するメディアってのも大事なんだなって思いました。愛情が湧くというか。
植松:
朽ちていくからこそ大切にしようと思うわけですよ。
細井:
いまカセットテープで新作を出したいという懐古主義的な意味ではないですけれども、その感覚は大切にしないとダメですね。その感覚が一般的に薄れてきているから消費文化になっているんですかね?
植松:
デジタル配信になってから若者の音楽離れって始まっていると思うんですよね。大事にしなくていいわけだし、そこにお金払わずともネットですぐに聴けてしまうんですから。

《ピシッと音程とか発音があっているのがいい音楽とは限らない》

細井:
音楽を聴くための時間ってのも無くなってきていますね。ながら音楽になってる。
植松:
なかなかそういう時間を取れなくなってきているのも確かだね。旅先のバスや飛行機の中とかで目を瞑って音楽を聴くと集中できるんですよ。「あ、このポール・マッカートニーのベース、チューニングがズレてる」とか(笑)神経集中して聴くと、これまで何十年と聴いてきて気付かなかった事に気付いたり。ポール・マッカートニーの「Band on the Run」ってベースのチューニングがちょっとだけ高いのよ(笑)
でもピシッと音程とか発音があっているのがいい音楽とは限らないじゃないですか。今言ったポール・マッカートニーのチューニングもアナログの時は全然気にならなかった訳で、リズムのグルーヴもバスドラとベースがキッチリ合っている訳じゃないんですよ。
でもそういうのって音楽を真剣に聞かないとわからないですよね。ただ流れているのを聴くだけだと「あ、気持ちいい音楽だな」で終わってしまうけど、分析しようとすると色々なものが見えてくる。
細井:
いいプレイヤーってヨレ方がうまいんですよね。サンプリングして波形を見てピークを調べたりしてみたんですけれども全然ズレているんですよ。
歌も同じで上手い人って平均律で歌ってないんですよね。ちょっと上ずっていたり。
植松:
だからピシッとした音程なんか実はどうでもいい気がする。波形で見るからズレてるって指摘するだけで。
細井:
今だとPro Toolsで見てしまうから波形がグリッドからズレているのが目でわかってしまうんですよね。で、目で見てわかるから直してしまうんですよ。それであれこれイジって出来上がったのを聴いてみたら「うわつまんねえ!」って。
植松:
だからテープだけしかない時代って音でしか判断してないから、聴いてOKだったらそれで終わりだったのに今は面倒くさくなったよね。波形で見えちゃうからズレてるって断言しちゃう。
細井:
別に聴く人がみんなPro Toolsで波形分析しながら聴いている訳じゃないですからね(笑)

《オーディオマニアと作曲家の相容れない関係とは?》

細井:
オーディオマニアとかオーディオオタクと呼ばれている人たちと僕たち作曲家って似ているようで相容れないところがあると思うんです。
オーディオマニアの人たちはとにかくピュア・オーディオを、つまりはどこまで高音質にできるかに拘っているのに対して僕たち作曲家はどこまで音を崩すかってところに拘りがあると思うんです。それこそテープシュミレーターを通してみたり。わざとノイズを乗せてみたり。
植松:
オーディオは凝ったほう?
細井:
いや、全然。
植松:
僕もなんです。音楽屋さんでもふた通りいるよね。オーディオに凝る人はとことん凝るし、片やラジカセでずっとやってきましたって人もいる。僕もずっとラジカセで聴いてきた方なんであんまり音質には拘らないんですよね。
気持ちいい音で聞ければそれに越したことはないんだけれども、それよりも音楽の方に興味があるからね。
細井:
そうなんですよ。どこに主眼を置くかによって違うと思うんですよ。元の楽器に忠実にどこまで音を再現できるかという点と、どこまで音を歪ませて崩していくのかという点。
植松:
指揮者の小澤征爾さんが前言っていたのが「せっかく僕が混ぜた100種類の音をオーディオマニアは全部バラしていく」って(笑)彼らは分けて聴き取ろうとするって。
細井:
プロのエンジニアさんに自分の曲をミックスしてもらった時に音の分離が凄く良くなったって話をしたら、別に分離するのが良い事とは限らないよって言われましたね。
自分でミックスした時に技術的に限界もあって音が団子状になったりすることがあるけど、それも意図的にやっているのであればそれが正解なんだって。
分離することが音楽として優秀というわけではないって言われました。
植松:
音楽的に正解というのはないからね。
細井:
ゴールをどこに置くかですよね。
植松:
ゴールはねぇ…締め切りですよ(笑)だって、締め切り無かったら延々とやってませんか?
細井:
ここ直すとこっちも直して…って繰り返して一生その曲を作り続けちゃいますね。

《二人の音楽の出発点とは》

—いまゴールの話が出ましたけど、お二人の音楽のスタート地点はどこだったのでしょうか?

植松:
僕にとっての決定的だったものは小学校5、6年の頃のラジオの深夜放送で流れていた洋楽とかですかね。
あとは小学校4年生の頃に姉にウイーン少年合唱団のコンサートに連れて行かれたんですが、そこで小4の男子が涙を流したわけですよ。なんか悲しくもないけど涙が出てくる感覚を知って、音楽ってのはひょっとしたら面白いかもしれないぞって思ったけれども、自分から聴き始めたのは小学校6年とか中学生の頃にロックにハマってからですかね。
レッド・ツェッペリンとかディープ・パープルとかプログレとかカーペンターズとかスティービー・ワンダーとか、どれ食べても美味しい!っていうラッキーな時代でした。
細井:
僕は年の離れた兄が音楽をやっていて、物心ついた頃には子供心ながら彼への憧れがありましたね。小学校の頃から兄のライブにも連れて行ってもらっていて、その当時兄がやっていたバンドがプログレ寄りだったりフィリージャズっぽかったり、ちょっとノイズっぽかったりで。なので歌モノというものに触れる前にそういう系統にどっぷりと浸かってしまったのでインスト系に興味が出たんですよね。
その後、映画を見た時に場面と音楽がバッチリ合っているシーンで心が揺さぶられるような感覚に陥って「コレがやりたい!」って思うようになりました。
植松:
僕も映画見ながらそういう感覚になったことはあるな。ジョン・ウィリアムズとかよりも前の前くらいの世代くらいの映画音楽のメインテーマを書いていた人たちがすごい好き。
僕も映画音楽をやりたかったんですよ。でもそれはメインテーマであって劇伴ではなかったんですよね。これは細井くんも同じかな?
細井:
オープニングテーマとかエンディングテーマに憧れはありますね。
「スターウォーズ」を見た時、メインテーマがあってそのまま場面が転換してダースベーダーのテーマが流れて…っていう一連の流れ、ああいうのがやりたいなって思いました。
その後ゲームと出会って最初は当然ゲーム自体が好きで遊んでいましたけど、そこでまた映像と音楽がリンクしているな、これは凄いなってなって。当時はナムコとかセガのサントラの全盛期だったのでそれにも感化されましたね。
植松:
映画音楽に興味を持ってゲーム音楽に入ったのはわかるけど、その映画音楽みたいなことをゲームでやりたいってのはまだ実現できてないでしょ?
細井:
そうですね。
植松:
僕もまだできてないんだけど実現させたいよね。映画やれよって言われちゃうかもしれないけど、そうじゃなくてジョン・ウィリアムズから受けた感動をゲームの世界で自分がやってみたいってことなんですよ。
でもそうなったら全部作らなきゃいけなくなるんだよね。金と根性が必要になってくるな…。
金はどっかから引っ張ってくるとして、根性がね…最近暑いし(笑)
でも何年か前に「マシナリウム」ってチェコのゲームに感銘を受けてね。こんなゲームをなぜ日本で作れないのかな?って思いました。世界観とか音とか絵も全くブレてないんですよ。
細井:
デンマークの「LIMBO」とかも凄いですよ。全編白黒のノワール的な世界で。
海外でも映画でいうところのハリウッド大作みたいなゲームのカウンターとしてインディーゲームに活気があるみたいですね。
植松:
インディーズで独特の世界観を築く人たちが出てくると面白いよね。
細井:
野心を持った若者が出てきてほしいですね。みんな「ドラゴンクエスト」作りたい「ファイナルファンタジー」作りたいって入ってきちゃうから。

—日本だと雨の日にしかプレイできないゲームで「あめのふるほし」ってのがありますね。スマートフォンのゲームですけれども。位置情報で天気と連動させて雨の日しかプレイできないっていう。

植松:
いいね。それは凄い。それこそインタラクティブだよね。
今ってネットがあるから情報って豊富にあるじゃないですか。でも時間には限りがあるからそこから選べる情報にも限りがあるでしょ。そうすると宣伝広告にお金がかかっているものがまずは目に入ってくるわけですからその雨のゲームとかにまでなかなか目が届かないんですよね。
本当はそういうものにこそ陽にあたって欲しいんですよ。雨のゲームなだけに(笑)そういう人たちが作っているものを見てみたいし、そういう場を与えたいですよね。
細井:
もちろん王道で勝負するのも大切なんですけれども、まだ誰もやったことがないものってまだまだあるはずなんですよ。

植松伸夫 Nobuo Uematsu Official Website
http://www.dogearrecords.com/

細井聡司 hosplug (ホスプラグ) | ゲーム音楽・映像音楽制作
https://www.hosplug.com/