植松伸夫氏と細井そうし氏のゲーム音楽家談義の第3回。最終回の今回はゲーム音楽家ゆえの悩みや音楽業界の今後について語っていただいた。

聞き手: 溝口太郎 / 写真: 小林伸

《ゲーム音楽だからこそ許されるアプローチっていっぱいあると思うんですよ》

植松:
ゲーム音楽だからオーケストラっていう傾向はそろそろ止めにしたいよね。オーケストラだったら偉いのかって思っちゃう。オーケストラを使っているのを売りにしててね。
もちろん、すぎやま先生が始められた「ゲーム音楽をオーケストラで演奏するんですよ」って時代もあったんですよ。でもオーケストラというものにゲーム音楽がぶら下がってのし上がる時代は20年前に終わっていると思うんだよね。
もしオーケストラでやるんだとしたら、オーケストラでやるゲーム音楽の面白さというものをしっかりと提示していかないと、ただオーケストラの威の借りているだけになってしまう。
だから僕の吹奏楽コンサートでは客席と一緒に演奏したり、ステージの上にあげて一緒に踊ったりして、ゲームとしてのコンサートの在り方みたいなのを始めつつあるんです。例えばピアノだけで成り立つサウンドトラックがあってもいいと思うんです。
別に楽器を使わずに周りの生活の音だけでもいいし、ギターの音だけでもいいし、ゲーム音楽なりのゲーム音楽だからこそ許されるアプローチっていっぱいあると思うんですよね。
でもプロデューサーやディレクターがそれを止めるんだよね。僕らの作家性を信じてこの企画だったらこんな音楽をつけてくるんじゃないのかって構えていて欲しいんだよね。
細井:
ディレクターさんとかって必ずしも音楽の知識がある人とは限らないから、自分の想像力の範囲内で絞り出して「じゃあスターウォーズっぽく」とかって言ってくる場合もあるんですよね。仕事受ける立場としてはその通りにも作りますけれども、本当はその人がスターウォーズぽくって言ったのはたまたまであって、その言葉の奥にあるものを汲み取って、その企画においてディレクターさんがスターウォーズに求めていたものは何かを把握して、それを違う形で提示してあげるのがプロの仕事だと思うんです。
スターウォーズに似たフレーズのもの作りました、ではクリエイターの仕事としては中途半端なんですよ。でもその為にはディレクターとの信頼関係が必要になってきますけれどもね。ボツ喰らうだけなんで(笑)しっかりと最初にコミュニケーションを取るのが大切だし、するべきですね。
植松:
自分たちは作曲マシーンではないからね。その人の何十年かの経験がメロディーを培っているわけで、そのゲームにはその人しか表現できないものがあって然るべきだから「○○っぽい」ていう表現はゲーム音楽だとしても良くないと思うんだよね。任された人は自分なりの感性を音楽に込めていかないとね。
細井:
昔よくあったのが海のステージの依頼が来た時に「ワルツでお願いします」って、マリオしかやったことないだろ(笑)そこで「ワルツじゃないけどこれも海っぽいでしょ」って出せないとダメだと思うんです。でもそこでみんなワルツしか書かないからゲーム音楽がどんどんつまらなくなっていっちゃうんですよ。

《他の人になんかなれないですよ。だったら自分のいる立ち位置を高めていった方がいいんじゃないかな。》

細井:
僕はゲーム音楽を作りたくてゲーム会社に入ってBGMや劇伴を作って歌モノを作る機会もあって、そこから主題歌とかも作るようになったんですけれども植松さん的にはBGMモノと歌モノを作る際のアプローチや気持ちって違ったりしますか?
植松:
僕はもともとポピュラー音楽や歌モノから入ってきているので歌モノ作ってる時の方が楽しいし意外と悩まないですね。逆にBGMを作る時の方が頭を悩ませますね。
だからできれば歌モノばっかり作って暮らしていきたいなあ(笑)ピンクレディーみたいなヒット曲作って…いいよねぇ。
細井:
(そういう子を)プロデュースしましょう(笑)
植松:
いや、でもヒット曲出せる人は羨ましいと思った時期もあったけど、あれはプレッシャーが凄いぞ。一回マグレで当たった次も期待されちゃうんだぞ。人生そこそこが一番(笑)
細井:
未だにどうやって歌モノ作っていいのかわからなくて悩んじゃうんですよ。歌モノ作ってもゲーム音楽みたいって言われちゃって。昔はそれを指摘されるのが嫌だったんですけれども今は個性として褒め言葉だと思うようにしています。
植松:
うん。それでいいと思うよ。自然に作っててゲーム音楽みたくなるんだったら、それ以外を作ろうとするということは他の人になろうってしているってことだから。他の人になんかなれないですよ。だったら自分のいる立ち位置を高めていった方がいいんじゃないかな。
細井:
ありがとうございます!
植松:
はい、50円(笑)

―ちなみに「何だこの依頼は…」みたいなこともあったりしますか?

植松:
なんだろうな…
細井:
よくあるのが「好きなようにやってください」ってやつ。
植松:
あ!それあるわ(笑)
細井:
一番困るんですよね。こちらとしては映像音楽として世界観に合わせたものを出すからそれまでの情報を出して欲しいのに「とにかく曲に合わせますんで好きに書いてください!」って。で、いざ曲を書いたら「ちょっと、これは違うかな…」って(笑)
植松:
それ3回くらいあるわ(笑)
細井:
そんな顔見知りじゃなかったり得意先じゃないクライアントからそれを言われると警戒しますね。

《仕事なかったら音楽やんないな…。音楽あんまり好きじゃないのかも(笑)》

細井:
仕事で曲書くときとオリジナルで曲書く時って感覚違いますよね?
植松:
最近あんまり書いてないね。書く時間あります?
細井:
ありますよ。最近仕事ないんで(笑)
植松:
仕事なかったら音楽やんないな…。音楽あんまり好きじゃないのかも(笑)
細井:
例えばEARTHBOUND PAPASの活動はどういった感じなんですか?
植松:
あれはね、メンバーみんな忙しいから暇な時になんかやるかって感じなんだよね。だから去年の4月にライブやって以来まだ顔合わせてないんだよ。だからその時使った楽器もまだ返ってきてない(笑)
ギターの岡宮(道夫)は「艦これ」のプロデューサーやってるからアッチコッチ飛び回ってるし、ドラムの藤岡(千尋)は色んなバンド掛け持ちしてるし、ベースの弘田(佳孝)はなんか中国のゾンビ映画の音楽作ってるって言ってた。
細井:
弘田さんはこの前のみとせのりこさんのライブで会いましたよ。
植松:
それにキーボードの成田(勤)は「グランブルーファンタジー」の音楽作りっぱなしだし…だから飲み会もやってないんですよ。
細井:
ってことはプライベートでは音楽は作らないんですね。
植松:
そうだね。作りたくもないって感じかな。音楽から離れていたいのかなあ…。
細井:
何の制約も無い中で作りたいっていう欲求は?
植松:
でも本当に仕事がなかったら作りたくなるかもしれないね。でも良いんだか悪いんだか凄い忙しいんだよね。今年まだ1日しか休みなくてさ。去年までこんなことなかったのに。だからどうしていいのかわからないんだよ(笑)
毎月会費払ってるだけのジムがあるんだけど、たまーに行って汗流すと生きてるって感じがするんだよね(笑)頭の中が活性化するからかな。あとは何したらリフレッシュできるかわかんないからとりあえず酒飲んで考えるんだよね。そしたら1日が終わっちゃう(笑)
でも規則正しい生活はしてるよ。5時に起きて作曲して、8時に朝メシ食べて、9時からメールの整理して、12時まで作曲して、昼メシ食ったら作曲して、3時くらいからジム行って、5時くらいから酒飲んであとは寝る。人と過ごす時はまた別だけどね。
細井:
外からの刺激ってどうやって受けてますか?
植松:
あんまり無いんだよね。でも刺激受けないと自分の中の引き出しが空っぽになっちゃうからね。飛行機の中で見る映画とか読む本とか、あとはウェブで毎日何かしら見てはいるけどウェブはあんまり頭に入ってこないね。自分から見るという意識が弱いからかな。
細井:
そうなんですよね。ボーッと見てていつのまにかウィキペディアの放送事故の項目とか見てたり(笑)あと、同業者の人と話したりするのは刺激になりますね。
植松さんがストレスの解消をどうしているか興味ありますね。
植松:
ストレス解消はしてないね。我慢しちゃう。小さい頃から我慢強い子だったんで。
高知県の高校通ってたんですけれど、そこの校風が「我慢の哲学」ってので何があっても我慢でしたね。その頃は音楽と映画が楽しみだった。あ、全然我慢してないな(笑)
でも普通に我慢するのは慣れてるんだろうね。コレが終わったらやりたいこと始めようってままここまできちゃった。このままだと何かを始めるチャンスが来ないから始めるなら今なのかなって最近思うようにはなってきたね。

《僕なんか「ファイナルファンタジー」の名前に乗っかってここまできた人間だから、また1からキチンとやってみたいんだよね。》

細井:
何か今チャレンジしてみたい音楽的アプローチとか仕事とかありますか?
植松:
僕のファンクラブの集いが年に2回あるんだけど、そこではゲーム音楽とは関係なく僕が物語を書いてウチの社員で絵が得意な人に絵を描いてもらって、絵本ぽいものを作って、それをスクリーンで上映しながら僕が演奏をつけて朗読をしてくれる人がいてってのはやってる。全13章とか14章に分かれてて9章くらいまでは音楽が付いているのかな。
それに全部音楽が付いたら全国のライブハウス巡りをしたいな。車に乗って機材を乗せて全国を回りたい。「ファイナルファンタジー」の曲はやらない(笑)
20人くらい集まってくれればいいんだ。僕なんか「ファイナルファンタジー」の名前に乗っかってここまできた人間だから、また1からキチンとやってみたいんだよね。
細井:
ライブというのは重要なキーワードなのかなと思うんですよね。音楽だけ作っててもCDが売れなければお金にはならない。それでは自分の音楽の価値をどうやって見出すかというところで、経験をお金に変えていくしかないなと思うんです。CD録音して売ってハイ終わり、ではなくてライブをやってリアルタイムでお客さんに目の前で聴いて楽しんでもらってというのが音楽の本来の形なのかなと。
植松:
基本的に音楽屋さんなんてストリートミュージシャンと同じだからね。道端で演奏して、いいなと思ってくれた人がお金を払うという形が。人様の前で自分なりに演奏をしたいよね。
細井:
優秀な劇伴の作家ってその功績が気付かれない人が多いですよね。インタラクティブ・ミュージックで綿密に組み込めば組み込むほど、映画を見る人やゲームをプレイする人はスムーズにその世界に入り込んでくれるから最初から最後までどんな音楽が鳴っているか気付かれない。けれども、改めてサントラで聴いてみたら「あ、すごいなこれ」ってなるのが一番美しい形だと思うんです。
植松:
そうだね。ゲームを遊んでいるときに音楽が邪魔をしたらダメだね。
細井:
裏方としての一面もありつつ、ライブのように表に出て活動していかないと自分を見出してもらえないのかなと思って。
植松:
音楽の力だけで勝負したい人もいると思うけど、僕はライブでのトークや雰囲気、演奏全てを含めて評価をしてほしいなって思うんですよ。
音楽屋さんで「あの人みたいにいい曲書けない」って自信なくしちゃう人いるけど、作曲で劣っていても実は喋りが凄いうまいかもしれないし、実家が金持ちかもしれないし…
細井:
そこ!?
植松:
いやいや、金もパワーですよ。金も腕力も頭脳もその人の力ですよ。その人の持っている力を全て使えばいいんですよ。使えるべき可能性はその人それぞれであるんですよ。
それをどうやって売り込んでいくかなんですよね。
細井:
もちろん作曲のスキルは最低限必要ですけれども活かし方次第なんですよね。オーケストラ使えばいいってわけじゃないのと一緒で必要であれば使って、必要なければピアノだけでもいいしFM音源だけでもいいし…
植松:
そうそう。これでもアリでしょ?って相手を説得していくわけですよ。そこにも話術も必要だし笑顔を作ることも必要だし、いつも本性を見せてたらダメ(笑)
細井:
古代(祐三)さんが「世界樹の迷宮」でBGMをFM音源で作ってたのが凄い悔しくて…僕もずっといろんなメーカーさんに全編ファミコンの音でPCゲームのBGMをやりたいって言ってきたんですけれども却下され続けちゃって。
植松:
今PSG音源でやってみやらどうなるんだろう?PSG音源32音とかでどんな音になるのか聴いてみたいよね。32和音じゃなくても微妙に音程ずらして低音太くしたりできるよね。
前にジョニー・デップの「デッドマン」でニール・ヤングがBGM担当してて、ずっとニール・ヤングのギター一本だけなのがあったな。スクリーンに映画を映してニール・ヤングがその場でアドリブでギターを弾いていったのを収録したっていうね。そういうのを許す制作会社とかプロデューサーいないかな。
細井:
こっちはいくらでもやるのに。
植松:
まあ、あれもニール・ヤングだからやらせてくれたんだと思うけどね(笑)
でもMINI MOOG一台ください、それで作ります!ってのはやってみたいね。制作期間1年ください!くれないか(笑)

《二人が見据えるゲーム音楽の未来》

―お二人から見てゲーム音楽業界ってこの先どのように展開していくと思いますか?

植松:
音楽を学んだ理論・理屈がわかる人が業界に入ってきているから音楽の質的には僕が始めた頃よりは確実に向上していると思うんですよ。ただ、面白くなっているかは別問題だと思います。「俺はこれが面白いと思う」ってのをどこまで打ち出しいけるかですよね。
ゲームの歴史ってまだ30年40年しかないかもしれませんが、これから続いていくとしたらゲーム音楽なりの面白味ってのは生まれてくるはずなんです。それを気付き始めている人もいるので、そろそろブレイクスルーする音楽家さんが出てくるかもしれない。僕も参加したいんだけど年取り過ぎちゃって(笑)
細井:
僕も同意見ですね。ゲーム音楽がインタラクティブ・ミュージックとしてつまらない時期が続いていたけど、今は技術的な部分もクリアになって土壌も整って、音楽的にもきちんと学んできた人が出てくるようになりましたからね。その部分は飽和してきたので誰かが突き抜けることで更なる発展が見られるのかなと思います。芸術っていつでもそうやって発展してきましたからね。
そういった若い人達に期待すると同時に、僕もその輪に入っていけたらなと思っています。
ちなみに、スマートフォンのゲームってどうなっていくと思います?
植松:
構えなくていい分、やりやすいですよね。ただ年のせいなのかあまりにも画面が小さくてさあ(笑)あとは電車の中でやる人とかが多いから音が聴かれなくなっていくかもね。
でもファミコンからゲームボーイが生まれたようにゲーム機というのは時代によって変わっていくものですよね。
細井:
スマホゲーバブルがここ何年かあって似たようなゲームが沢山出てきたけど、それが淘汰されていく時期が近いうちに訪れるでしょうね。
iPhoneが出たての頃のゲームって斬新なアイデアのものが多かったと思うんですよ。価格も200円300円で一人で作っているようなゲームで。あんな時代がもう一度くれば大作ゲームのカウンターとして発展していくんじゃないでしょうか。

―お二人ともありがとうございました。

植松伸夫 Nobuo Uematsu Official Website
http://www.dogearrecords.com/

細井そうし hosplug (ホスプラグ) | ゲーム音楽・映像音楽制作
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